「この子を、どうしたらいいんでしょう?」
以前、知人から相談を受けたことがあります。
小学校に入ったばかりの男の子。
医療機関を受診したところ、ASD(自閉スペクトラム症)と診断されたそうです。
学校生活の中で集団行動がうまくできなかったり、思い通りにならないことがあると、強く反応してしまったりすることがある。
ご家族も、どう対応したらいいのか悩んでいました。
私はNLP心理学を学び始めた頃、公認心理師の資格試験の勉強も並行して行っていました。
ただ、私は医師でも公認心理士でもない。
診断をすることも、治療をすることも当然できない
だから、こうした相談を受けたときにできることは限られているんですよね
医療機関で受けた診断や専門家からの助言を前提に、
「本人にとって、どんな環境が過ごしやすいのだろう?」
「ご家族は、何に困っているのだろう?」
「今できることは何だろう?」
そんなことを一緒に整理して考えることです。
そのとき、改めて感じたことがあります。
それは、「相手を変える前に、その人を取り巻く環境を見てみる」ということでした。
ASDには、人とのコミュニケーションが難しい、興味のあることに強く集中する、こだわりが強い、予定の変更が苦手など、さまざまな特徴があります。
ただし、現れ方には個人差があります。
同じ診断名がついていても、一人ひとりでまったく違います。
だからこそ、私が大切だと思うのは、診断名そのものよりも、「その人が、どんな場面で困っているのか」を見ることが大切だと思う。
例えば学校では、
「先生の話を聞く」
「みんなと同じ時間に行動する」
「決められた方法で課題をする」
このようなことが求められます。
多くの子にとっては当たり前にできることでも、ある子にとっては、それが大きな負担になっている場合があります。
その負担が積み重なると、怒ったり、泣いたり、教室から出ていったりすることもあるでしょう。
周囲から見ると、「どうしてこの子は、こんなことをするんだろう?」と思ってしまうかもしれないですよね。
でも、ここで少し視点を変えてみましょう。
「この子は、何に困っているんだろう?」
そう考えてみます。
すると、これまで「困った行動」に見えていたものが、「困っていることを表現している行動」なのかもしれない。
こうなると見えてくることがあります。
人は「環境」によって見え方が変わる
これはASDに限った話ではありません。
私たちは普段、
「この人は頑固だ」
「この人は融通が利かない」
「この人はコミュニケーションが苦手だ」
など、人の特徴を見て判断することがあります。
でも、その人が置かれている環境まで見ているでしょうか。
例えば職場で、細かいことを何度も確認する人がいるとします。
「面倒な人だな」と思うこともあるかもしれません。
でも、
「失敗が許されない環境にいるのでは?」
「過去の失敗が強く残っているのでは?」
「そもそも、仕事の指示が曖昧なのでは?」
と考えてみることもできます。
もちろん、だからといって、その人の行動すべてを肯定する必要はありません。
大切なのは、「本人だけを変えれば解決する」と決めつけないこと。
その人と環境との関係を見ることが何よりも大切だと思っているんですね。
「個性」は環境によって強みにも弱みにもなる
例えば、一つのことに集中するのが得意な人がいるとします。
ある環境では、
「集中力がすごい」
「専門性が高い」
ざっくり言うとこのような長所になるでしょう。
ところが、次々と仕事を切り替えなければならない環境では、
「切り替えが遅い」
「融通が利かない」
こんな感じで評価されるかもしれません。
同じ特徴なのに、環境によって見え方が変わります。
だから私は、「この人には何が足りないんだろう?」と考えるだけではなく、「この人が力を発揮できる環境は、どんなものなんだろう?」
こんな方向から考えることも大切なのではないかと思っているんです。
これは、子どもだけの話ではありません。
大人にも同じことが言えるのではないのでしょうか。
本人だけでなく、家族も「困っている」
もう一つ、この相談を通して感じたことがあります。
それは、本人を支える家族もまた、悩んでいるということです。
子ども本人が学校で困っている。
その姿を見て、家族も悩んでいる。
「学校にどう伝えればいいんだろう」
「どう接すればいいんだろう」
「この先、大丈夫だろうか」
そんな不安を抱えているかもしれません。
だから、本人への対応だけを考えても十分ではありません。
本人の気持ち。
家族の気持ち。
学校など周囲の環境。
これらそれぞれを整理して、「今できることは何だろう?」と一緒に考える。
それが、私にできる支援の一つなのだと思っています。
もちろん、医療的な判断や治療については、医師など専門家の領域です。
何があっても、そこは越えてはいけない。
だからこそ、自分ができる範囲の中で、情報や価値観を整理し、その人が一歩を踏み出しやすい環境を考える。
私はそこを大切にしたいと強く思っているんですよね。
「相手を変える」から「環境を見直す」へ 心理学は「人を変えるため」だけのものではない
今回の話を、ASDの子どもの話だけで終わらせたくないんです。
なぜなら、私たちの日常にも同じことがあるからです。
職場で、どうしても合わない人がいる。
家族に、何度言っても分かってもらえない人がいる。
学校で、周囲とうまく馴染めない子がいる。
そんなとき、
「どうすれば、この人を変えられるだろう?」と考えてしまうことがあります。
でも、その前に一つだけ考えてみる。
「この人を取り巻く環境は、どうなっているんだろう?」
「この人は、その環境の中で何に困っているんだろう?」
このように考えてみるだけで、相手を見る角度が少し変わるかもしれません。
もちろん、環境を見ればすべての問題が解決するわけではありません。
相手に変わってもらう必要がある場合もあります。
でも、「相手を変える」という一つの方法しか見えていなかったところに、
「環境を変える」
「関わり方を変える」
「情報の伝え方を変える」
これだけでも選択肢が増えていく。
私は、それだけでも大きな意味があると思っています。
心理学を学んでいると、「どうすれば人を変えられるのか?」という方向に目が向くことがあります。
でも、私は最近、少し違う使い方もあるのではないかと思っています。
それは、「その人が、自分らしく一歩を踏み出せる環境を一緒に探すこと」です。
人には、それぞれ違った個性があります。
得意なこともあれば、苦手なこともある。
その個性を無理に変えるのではなく、「どんな環境なら、この人は力を発揮できるのだろう?」と考えてみる。
そして、本人や家族と一緒に情報や価値観を整理しながら、「今できる一歩は何だろう?」と考える。
それも、心理学を活用する一つの方法なのかもしれないね。
101回目の「はじめの一歩」
第100回では、「相手を変えたい」という視点から、「相手を理解したい」という視点へと自分自身の見方が変わってきたことを書きました。
そして101回目。
今回は、その「理解する」ということを、もう一歩進めてみました。
相手を見るとき、「この人は、なぜこうなんだろう?」だけではなく、「この人は、どんな環境の中で、こうなっているんだろう?」と考えてみる。
さらに、「この人が一歩を踏み出しやすくなるには、何が必要なんだろう?」と考えてみると…。
それはASDと診断された人に限った話ではありません。
職場でも、家庭でも、人間関係でも使える視点だと思います。
相手を変える前に、その人を取り巻く環境を見てみる。
もしかしたら、今までとは少し違った景色が見えてくるかもしれません。
100回を越えても、まだまだ勉強中。
だからこそ101回目も、はじめの一歩を踏み出そう。

