今回取り上げるのは、安西巧著『マツダとカープ 松田ファミリーの100年史』(2022年刊)である。
手に取ったきっかけは、カープの現状への看過できない疑問だった。
2025年は終盤に大きく失速して5位に終わった。
2026年は、羽月隆太郎選手が指定薬物エトミデートをめぐる事件で逮捕・起訴され、球団は契約を解除する事態となった。
その後、他の複数の選手にも疑念が向けられ、球団は10月、主力を含む4選手に来季の契約を結ばないと通告した。
球団は薬物使用の事実は確認できなかったとしながらも、「信頼関係を築くことが難しい」と説明した。
使用が確認されないまま主力が自由契約となったことも、大きな波紋を呼んだ。
成績不振に加えて、不祥事への対応や情報の伝え方にも、一人のファンとして物足りなさを感じていた。 戦力面の問題はもちろんあるだろう。
ただ、有望な選手が入団しても、その力を引き出す指導体制や、データを生かした戦略づくりは十分だったのか。
外部の人材を広く迎えて組織を変えようとする姿勢も、私には見えにくかった。
そこで知りたくなったのが、球団経営を担う松田元オーナーの考え方の源流である。本書は、東洋工業(現在のマツダ)を創業した初代・松田重次郎と、二代目・松田恒次を軸に、松田家と企業の歩みを描いている。著者があとがきで述べているとおり、松田家について、まとまった文献はこれまでなかったという。
カープに関する記述が限られているのも、そのためだろう。
それでも本書には、今のカープを考えるうえで欠かせないヒントがあった。
困難を乗り越える中で松田家が培ってきた、「スピリット」である。
↓本書はこちらから↓
https://www.shinchosha.co.jp/book/610942/preview
松田家が受け継いできた「育てる」という精神
戦後の広島に希望をもたらしたものとして、東洋工業の三輪トラック生産再開と、1950年のカープの公式戦参加があった。
街が復興へ歩み始める中、地域とともに生き、カープを人々の希望の象徴にしようと考えたのが、二代目・恒次社長だった。
恒次氏には、プロ野球選手を、野球がうまいだけの存在ではなく、理性と教養、常識を備えた人間として育てたいという考えがあったという。
この姿勢は、カープが掲げてきた「育てて勝つ」という方針にも通じるものではないだろうか。
もう一つ印象に残ったのが、初代・重次郎氏の厳しい金銭教育だった。
子どもたちが事業を始めるとき、会社のお金を安易に使わせず、銀行から借りるよう求めたという。
利子がついても、借りたものは返さなければならない。
その責任を身につけさせるためだった。
厳しい現実に向き合わせることで、人を育てようとする姿勢がそこにはある。
松田家は、戦前から数々の困難や失敗を経験してきたのは本書を読んでいただければと思う。
だからこそ、苦境でも簡単にあきらめず、前を向くことの大切さを知っていたのだろうね。
もちろん、重次郎氏の教育方針と現在のカープの育成方針が直接つながっていると、断定はできない。
それでも、そこに共通する精神を感じた。
人を育てること。そして、困難に直面してもあきらめないこと。
これこそが、松田家の歴史から読み取れる大切なスピリットではないか。
だからこそ、その精神が今のカープに本当に生かされているのかを、問いたい。
伝統を守るだけでなく、変えるべきものを変える
現在、マツダと松田家はかつてのような経営上の結びつきにはなく、カープは親会社に頼らない独立採算型の球団として運営されている。
松田元オーナーには、球団を存続させ、地域に根ざした存在として守り続ける責任がある。
しかし、球団を存続させることと、球団をより強く、より信頼される組織にすることは、同じではない。
2025年のカープは終盤の歴史的大失速により59勝79敗5分けでリーグ5位、2026年は4位ながら借金17でシーズンを終えた。
そこに選手の不祥事も重なった。
こうした状況でファンが求めているのは、謝罪や選手の入れ替えだけではないはずだ。
何が問題だったのか、今後何を改善するのか、球団としてどう責任を果たすのか。
地域とともに歩む球団だからこそ、説明できることは丁寧に説明し、信頼を取り戻す努力を続けてほしい。
チーム強化についても、従来のやり方にこだわりすぎるべきではない。
選手の補強は必要だが、それと同じくらい大切なのは、選手を育て、能力を引き出す指導体制の強化につきる。
これまでの人間関係や慣例にとらわれず、他球団で実績を積んだ指導者や、データ分析、育成、編成に精通した人材を幅広く迎えてほしい。
その意味で、元ヤクルトGMの小川淳司氏を編成部門に迎える動きには期待している。
現場とフロントの双方を知る人物であり、その知見は球団の強化に生かせるはずだ。ただし、大切なのは人を招くこと自体ではない。
外部から得た知見を、意思決定や育成方針、データ活用にどう反映させるのか。
そこまで踏み込んではじめて、本当の改革になる。
松田家の歴史には、困難を恐れず新しいことに挑み、厳しい現実に向き合いながら道を切り開いてきた姿がある。その精神を受け継ぐのであれば、伝統を守るだけでは足りない。時代に合わせて変えるべきものは変え、必要なら外部の力も借りて、よりよい組織をつくっていく。それもまた、松田家のスピリットを受け継ぐことではないだろうか。
正直カープは他チームとの戦力差がさらに開き、まだまだ地獄は続くかもしれない。
私はこれからおこるかもしれないさらなる悲劇を覚悟しつつも、カープを応援していくつもりである。
だからこそ、疑問を感じる点はきちんと指摘していきたい。
広島の街とともに歩み、ファンが誇りを持てる球団であり続けるために。松田家が築いてきた歴史と精神を思い出し、今こそ未来に向けた改革に生かしてほしい。
それが優勝や日本一よりも優先してほしいカープファンとしての悲願であるんだね。

