この作品はKADOKAWAから2018年に刊行され、吉沢亮さんと杉咲花さんの主演による映画が公開されたのが2020年のこと。
決してタイムリーな作品ではないんですが、一度はきちんと読んでおきたいと思い手に取ってみました。
あらすじとしては、原作・映画の内容がともに公式の映画製作委員会による紹介文をもって知っていただきやすいだろうと思いますので、以下引用させていただきます。
人付き合いが苦手で、常に人と距離をとろうとする大学生・田端楓と空気の読めない発言ばかりで周囲から浮きまくっている秋好寿乃。ひとりぼっち同士の2人は、「世界を変える」という大それた目標を掲げ秘密結社サークル【モアイ】を作るが、秋好は“この世界”からいなくなってしまった…。秋好の存在亡き後、モアイは社会人とのコネ作りや企業への媚売りを目的とした意識高い系の就活サークルに成り下がってしまう。取り残されてしまった楓の怒り、憎しみ、すべての歪んだ感情が暴走していく……。アイツらをぶっ潰す。秋好を奪ったモアイをぶっ壊す。どんな手を使ってでも……。楓は、秋好が叶えたかった夢を取り戻すために親友や後輩と手を組み【モアイ奪還計画】を企む。青春最後の革命が、いま始まる−− 。(C)2020映画「青くて痛くて脆い」製作委員会
1.理想が大きくなった時に起こること
このように理想を追い求める秋好に引っ張られた楓は【モアイ】を立ち上げ、「世界を変える」という目標のもとで活動を始めていく。
最初は二人だけの小さな活動から。
しかし、その活動は少しずつ大学内に広がり、サークルとしての規模も大きくなっていく。
ところが、「人に不用意に近づきすぎない」「できるだけ他人と衝突しない」ことを信条としていた楓は、二人だけだった居場所が変化していく中で、自分の存在意義や立ち位置を見失い、やがて【モアイ】から距離を置くことになっていく。
そして時が経ち、【モアイ】は理想を掲げる集団から、就職活動を目的としたサークルへと変貌を遂げていく。
楓は、秋好が追い求めていた理想の【モアイ】を取り戻すべく、孤独な戦いを始めていく。
実際にどのような経緯を辿ったのか、なぜそのような行動に至ったのかについては、ぜひぜひ原作や映画を楽しんでもらいたい。
2.人は人を「間に合わせ」に使うのか
楓本人からすれば、秋好と出会い、【モアイ】が大きくなり始めるまでの時間や思い出を否定されたような感覚があったのだろうと思う。
それは特別な存在として尊重されていたところから、いつの間にか大勢の中の一人になってしまったような感覚。
本書には印象的な言葉として、「人は人を、間に合わせに使う」という表現が見受けられる。
少し寂しく感じる言葉なんだけど、心理学的な視点から考えると実はとても興味深い内容だったりするからちょっと聴いてもらっても構わないかな。
NLP心理学には、「地図(マップ)は領土(テリトリー)ではない」という考え方があるんだ。
私たちは現実そのものを見ているようでいて、実際には自分なりの解釈を通して世界を見ている。
たとえば同じ出来事を経験しても、ある人は「裏切られた」と感じ、ある人は「成長する機会だった」と感じる。
つまり、人は見たいように見て、聞きたいように聞き、感じたいように感じるんだね。
その過程である情報を削除し、歪曲し、一般化していく。
だからこそ、自分にとっての正義や理想が、必ずしも他者にとって同じとは限らない。
崇高な理想を掲げることは素晴らしいこと。
しかし、その理想を実現するための方法まで常に正しいとは限らない。
この作品は、その難しさも含めて住野よるさんは描いているんじゃないだろうか。
3.青くて、痛くて、脆い
人によって程度の差は当然あるにせよ、特に青年期は経験の蓄積がまだ少ない時期だと言える。
だからこそ理想を信じる力もひときわ強い。
一方で、物事がどのような結果につながるかを十分に想像できないこともある。
だから「青い」。
それに、理想と現実のギャップにぶつかると深く傷つく。
だから「痛い」。
さらに、想定していなかった結果が訪れた時、心が大きく揺らぐ。
だから「脆い」。
この作品のタイトルは、まさにそうした人間の姿を表しているように感じたよ。
もちろんこれは若者だけの話ではないはず。
年齢を重ねても、自分の信じていた価値観が覆されたり、人間関係の中で傷ついたりすることはある。
むしろ大人になったからこそ、自分の考えを変えることが難しくなる場合もあるでしょうね。
4.世界を変える前に、見方を変える
映画の終盤には、個人的にとても印象に残った場面があったのですよ。
それは、「大切な人に勇気を持って近づき、自分の想いを伝える」という行動の結果を示したアナザーワールドを描いた場面。
この作品は「世界を変える」という壮大なテーマから始まるのだけれども、たとえば戦争をなくすことやいじめやハラスメントをなくすこと…など、こうした理想はとても尊いもの。
ただ、それを一人で実現することは簡単ではないのは共感はしてもらえると思う。
一方で、自分の目の前に見えている世界の捉え方を変えることはできる。
心理学は、そのためのヒントを与えてくれる。
最後に登場する、「その時もう一度、ちゃんと傷つけ」という言葉。
これは単に苦しめという意味ではないと思っているんだ。
自分が信じていた物語や思い込みを手放し、別の角度から世界を見てみる勇気。
そのためには、一度傷つくことも必要なのかもしれないね。
そしてそれは若者だけではなく、私たち大人にも求められていることではないだろうか。
世界を変えることは簡単ではない。けれども、世界の見方を変えることなら今日からできる!
みなさんも作品を味わうことと同時に、自分自身の捉え方をちょっぴり見つめ直してみられてはいかがでしょう?
もしこの作品が、そんな「はじめの一歩」を踏み出すきっかけになれば、本当に微々たる影響でも世界が良い方向に変わるのなら、これは飛び上がるほど嬉しいね!

